小説2話 推敲

20 3月1×日(卒業式前日) 

杏子、世界の狭間の自室にて。 

 

 

あの頃は、ハル君と会ってすぐのこと。「心の準備ができたら、見るといいよ」とハルくんが渡してくれた、「過去を覗き見れる」デバイス。 

その、デバイスを手に持って、 

杏子は見つめていた。見つめていた。リアルタイムでは心の準備ができていなくて見れなかった杏子のお通夜の様子を見ていた。 

放心していたり、現実を受け入れられなくってただ立ち尽くしていたり、泣きじゃくったりする学友の姿が見えた。マシュはどこだろう。 

マシュは一番最後に来て、談笑せずに帰った。 

 

その頃の杏子は「惜しまれていた」それは誰が見てもわかる光景だった。 

杏子は、翌日の学校を眺めた。早送りのように過去の映像を眺めながら、不思議なことに、「過去が見渡せるはず」のそのデバイスの光景は、すべての時間を見渡せるわけではなかった。授業がとちゅうから始まったり、途切れたりした。部活も全部見れるわけではなかったが、杏子はそのこと自体は気に求めなかった。映らない部分は男子運動部などが多く、杏子の仲の良かった友人の範囲はおおむねカバーされていたからである。あと、マシュ。 

映像はきっちり学校にいる分しか、なかった。しかし、マシュだけは別だった。彼の部屋、日記を書いているところまで、映っている時もあった。 

 

これが、ハルくんの言う、「権限による制限」ってやつかな、と杏子はぼんやりと思った。 

つまり、杏子は低級の使者だから、自分の関心のある部分しか見えない、とか。 

 

そう思ってから、ずっとマシュのことばかり想ってる、と杏子は少し気恥ずかしくなった。 

 

時間が来たので、杏子は映像を途中で閉じた。 

 

明日は、卒業式だ。みんなにとっても、高校生であることが終わる日で、旅立ちの日だ。 

皆はどんな顔で、クラスの、部活の皆へ、そして「杏子へ」別れを惜しむのだろう。杏子は、自分がみんなの表面意識へ登るであろうことが少し「たのしみ」であった。もう、最近は話題にもならない自分について、友達が名残惜しそうにひそかに期待していた。してしまっていた。 

 

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