小説2話 推敲

 

14 12月中旬(12/16日ごろのイメージ) 

 

「情報が、少ない。」 

ハルは珍しく、地上の狭間にある普段は人の来ない石造りの建物に来ていた。西洋の聖堂のようなデザインのそれは、しかし、日本人の体格に合わせて作られており、日本人の風土をどこか感じさせるモダンな洋館だった。窓はない。 

ハルはその洋館の中の棚を漁っていた。先人の残した、メモ書きをただひたすら漁っていた。 

目的は、そう、杏子の黒曜化の治癒方法である。 

 

編纂された情報があまりにも少ないその建物は、図書館や書物を扱う情報館というには半ばお粗末な場所であった。とはいえ、世界の狭間、東洋の日の出づる国関東支部には、このようなお粗末な建物一つしかなかったというのも事実だ。 

「ちゃんとメモっておけ」と、ハルはかつてここにいたはずの先人達へ当てつけのような独り言を言いながら書類を漁る。 

 

思えば、世界の狭間【関東支部】の雰囲気は、子供のころ見た世紀末系SFのアポカリプス的世界に似ている。というか、ほぼそのままといってもいいほどだ。本当に世界が退廃的で、廃墟で満ちていて、人間の知恵や構造物や記録といったものにたいして価値が見出されずうっちゃられている、そういう風な世界の方がより原体験的な理想郷としてのイデアになっているとしたら、神様なんぞというものは大変趣味のわるいものよなあとハルは思った。ていうか俺神など信じてたのか。 

……信じてねえ。 

 

しかし、杏子のことが気がかりである。 

 

神頼みして救われる程度であれば、ぜひとも神頼みしてやりてえものだとハルは思いながら段ボールのような箱を棚から開けては乱雑に挟まったメモをひったくっては眺め、はあと呆れてひと息ついて締めを繰り返した。マナによるレシピ、ってなんだよ。先人が残した最後の人間的な欲望は食い意地だったのか。 

 

けっきょく、その日の自由時間をフルに使ったが、杏子の黒曜化を防ぐための情報はみつからなかった。 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です